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無題
- 2006/11/20(Mon) -


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長田弘・詩集『人はかつて樹だった』を読む。

  樹の伝記

 この場所で生まれた。この場所で
 そだった。この場所でじぶんで
 まっすぐ立つことを覚えた。
 空が言った。-わたしは
 いつもきみの頭のすぐ上にいる。-
 最初に日光を集めることを覚えた。
 次に雨を集めることも覚えた。
 それから風に聴くことを学んだ。
 夜は北斗七星に方角を学び、
 闇のなかを走る小動物たちの
 微かな足音に耳をすました。
 そして年月の数え方を学んだ。
 ずっと遠くを見ることを学んだ。
 大きくなって、大きくなるとは
 大きな影をつくることだと知った。
 雲が言った。-わたしは
 いつもきみの心を横切ってゆく。-
 うつくしさがすべてではなかった。
 むなしさを知り、いとおしむことを
 覚え、老いてゆくことを学んだ。
 老いるとは受け入れることである。
 あたたかなものはあたたかいと言え。
 空は青いと言え。


いい詩だ。

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母ー回帰
- 2006/12/02(Sat) -

               mori.jpg


母 -回帰-                  


母よ
深き緑に煙るあの森へ帰ろう
懐かしき森へとともに帰ろう



弱く悲しい手を差し伸べよ
白く透きとおる手を差し伸べよ



その手を取るため
永い歳月をかけ
あなたの娘は健気にも
やっとあなたの元へと
辿り着くことができたのだから



母よ
深き緑に煙るあの森へ帰ろう
懐かしき森へとともに帰ろう



時にはあなたの道案内人となり
暗闇にはあなたを照らす灯火となり



許しを与えるため
永い歳月をかけ
あなたの娘は懲りることなく
やっとあなたの元へと
辿り着くことができたのだから



深き森へと分け入りながら
木立の下で憩いながら
湖に映る月を眺めながら



苦難に満ちた
あなたの物語を
力尽きる
最後の時まで
私が寄り添い懐に抱き
聞き慣れた子守唄のように
静かに歌って差し上げましょう



母よ
深き緑に煙るあの森へ帰ろう
懐かしき森へと共に帰ろう



夕暮れになると
どちらからともなく
声を掛け合い
呼び合って
前になり後ろになりながら
命の源へと帰っていく
あの鳥達のように

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祈り
- 2007/02/10(Sat) -








道を求める者の祈り



神様、

私に変えられるものがあれば、

それを変える勇気を与えてください。

変えられないものがあれば、

それを受け入れる心を与えてください。



そして、

変えられるものと、変えられないものを、

見分ける知恵を与えてください。



また私が、

正しいと思うことを貫く勇気を与えてください。

たとえそれが私にとって望みのないものであっても・・・・



(ラインホルド・ニーパー)
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         鬼
- 2007/02/22(Thu) -


悲しみの根源を探し求め


永い旅を続けてきた。


辿り着いた仄暗い水底・・・・


そこに蒼き鬼は棲んでいた。


幼き瞳を凍りつかせ


餓えと渇きに病み衰えて





ああ


これが私の悲しみであったのか・・・・


これが私の正体であったのか・・・・


 

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碧桃樹(へきとうじゅ)
- 2007/03/14(Wed) -

hekitoujyu.jpg


・・・・・・・・・・・・・・・碧桃樹(へきとうじゅ)

二十四詩品より (晩唐の詩人司空図しくうと(837~908)作)


采采流水、蓬蓬遠春。

采采さいさいたる流水、蓬蓬ほうほうたる遠春。

窈窕深谷、時見美人。

窈窕ようちょうたる深谷、時に美人をあらわす。

碧桃滿樹、風日水濱。

碧桃 樹に満つ、風日の水浜。

柳陰路曲、流鶯比隣。

柳陰にみちまがり、流鶯りゅうおう 比隣ひりんす。

乘之愈往、識之愈眞。

これに乗じていよいよ往けば、これをしるしていよいよ真なり。

如將不盡、與古爲新。

もしすすめて尽きざれば、いにしえとともに新をなさん。




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荒れ果てた原っぱにて
- 2007/04/02(Mon) -


                                        


                                 kuroneko.jpg


私は長い間野良猫のようにして町町を彷徨い


それが何時からなのか物心もつかないうちから


あちらこちらの優しい方々のお情けをこうむってご飯を頂き


時にはあまりにも荒々しく抱きしめられて


癒されることのない深い傷を都合五回ほどは受けながら


かろうじて命だけはつないできたものの肉体はどんどん穢れてゆき


淡雪のように白く生まれたはずのこの身体さえふと気づくと漆黒に染まり


老猫と成り果てた今でもその色は決して元には戻らないまま更に深い闇を抱え


明け方まで裏の荒れ果てた原っぱをあてもなく意味もなく


どこまでもどこまでも歩き回ってはまた再びの朝を迎えるのであります。


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詩を読む
- 2007/04/06(Fri) -

詩を読む



  世界は一冊の本


本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。


書かれた文字だけがほんではない。
日の光り、星の瞬き、鳥の声、
川の音だって、本なのだ。


ブナの林の静けさも、
ハナミズキの白い花々も、
おおきな孤独なケヤキの木も、本だ。


本でないものはない。
世界というのは開かれた本で、
その本は見えない言葉で書かれている。


ウルムチ、メッシナ、トンブクトゥ、
地図のうえの一点でしかない
遥かな国々の遥かな街々も、本だ。


そこに住む人びとの本が、街だ。
自由な雑踏が、本だ。
夜の窓の明かりの一つ一つが、本だ。


シカゴの先物市場の数字も、本だ。
ネブド砂漠の砂あらしも、本だ。
マヤの雨の神の閉じた二つの眼も、本だ。


人生という本を、人は胸に抱いている。
一個の人間は一冊の本なのだ。
記憶をなくした老人の表情も、本だ。


草原、雲、そして風。
黙って死んでゆくガゼルもヌーも、本だ。
権威をもたない尊厳が、すべてだ。


200億光年のなかの小さな星。
どんなことでもない。生きるとは、
 、 、、 、、、 、、、
考えることができるということだ。


本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。


長田 弘 「世界は一冊の本」 より


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私、この人の詩、好きなのかもしれない・・・

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マンチョクさん
- 2007/04/22(Sun) -

 眠れぬ夜に、詩を読む。          


 


               吹雪の夜の会話       


                               猪狩満直


ずいぶん ふぶくね 父ちゃん


こんなに吹雪いたら小屋がのまってしまわないか
                         (のまれてしまわないか)


のまったって平気だよ


あしたも 父ちゃんが スコップで掘ってやるよ。


だって 小屋が泣いてるだないか


ああ 窓がみえなくなった。


泣いてるだないよ


歯ぎしりかんでるのだよ。


だって つぶれたらどうする。


小屋なんと そんな弱虫でないよ


はしらが づうと土の中にがんばってるんだよ


あら あっこの穴から


つめていな (冷たいな)


つめていなんて 言うもんじゃないよ


つめていて 言うと 余計に吹きこむんだよ


バカ野郎って 笑ってやるもんだよ


だって 冷たくて ねむられねいだねいか


だから 父ちゃんはさっきから言ってるじゃないか


ぼうしか 風呂敷をかむって 寝なさいって


明日は止むかい


止むとも


明日はいいおてん気で


お日さんは


悪者の雪さんを


いじめてくれるとさ


お日さんと


雪さんと相撲とったら


どっちが負けるかね


さあ


みんなでねむろ


いち・に・さん

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言葉
- 2007/04/25(Wed) -

言葉は身体から出てくる呼吸の音


血液の流れる音
骨と骨がこすれる音
肉と肉がせめぎあう音


かすれていてもとどろいても


途切れていても
繰返されても
そしてただ一列に並んでいても


生きている生きている
そのままの音


(どうか耳を塞ぎたければ塞いでください)


今日も音は鳴り止みはしない


ひゅーひゅー


どくどく


ぎしぎし


ぎゅうぎゅう・・・



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詩を読む 「虫けら」
- 2007/05/03(Thu) -

世間一般連休などとて
何処へと特に行くあてない私は
いつもどおりの時間に起きて
家族まだまだ眠りは深く
シーンと静まる家の中
そろりそろりと息をもひそめて
洗い物やら洗濯・片付け
家事を済ませてホッと一息
たっぷりお湯を満たした朝風呂
ぼんやり・ぼんやり・ぼんやり入る・・・


もうそれだけで心からの満足感・・・


部屋に戻って、ふと、詩を読みたくなる。


     


                虫けら       


                               大関松三郎


一くわ
どっしんとおろして ひっくりかえした土の中から
もぞもぞと いろんな虫けらがでてくる
土の中にかくれていて
あんきにくらしていた虫けらが
おれの一くわで たちまち大さわぎだ
おまえは くそ虫といわれ
おまえは みみずといわれ
おまえは へっこき虫といわれ
おまえは げじげじといわれ
おまえは ありごといわれ
おまえらは 虫けらといわれ
おれは 人間といわれ
おれは 百姓といわれ
おれは くわをもって 土をたがやさねばならん
おれは おまえたちのうちをこわさねばならん
おれは おまえたちの 大将でもないし 敵でもないが
おれは おまえたちを けちらかしたり ころしたりする
おれは こまった
おれは くわをたてて考える
だが虫けらよ
やっぱりおれは土をたがやさんばならんでや
おまえらを けちらかしていかんばならんでや
なあ
虫けらや 虫けらや

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R..タゴールの祈り
- 2007/05/04(Fri) -


    R.タゴールの祈り



わが主よ、
これがおんみに献げるわたしの祈り---


願わくは、
わたしの心の貧しさの根源を 打って打って 打ちすえたまえ。


願わくは、
喜びにも悲しみにも かるがると 耐え忍ぶ力を与えたまえ。


願わくは、
わたしの愛を 奉仕において 実らせる力を与えたまえ。


願わくは、
貧しい人びとを拒むことなく、
傲慢な権力の前にも 膝を屈することのない力を与えたまえ。


願わくは、
わたしの心を 日常の無益なことどもから 
超然と孤高に保つ力を与えたまえ。


そして願わくは、
わたしの力を 愛をこめて 
おんみの御意志のままに従う力を与えたまえ。

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危機
- 2007/05/06(Sun) -

なんか変だろ?


また大きな策略の罠に嵌められようとしている気がするだろ?


だって


あの時と同じじゃない


あの頃もそうだったじゃない


いつも同じ手口じゃない


(私が叫ぶと顔を顰める)


知りたくないんだ


知っていても知らんぷりなんだ


知ること自体を止めたんだ


でも


それで済むわけないじゃない


それで自分たちだけやり過ごそうなんてずるいじゃない


なんでもないふりはもう通用しやしないんだよ


防ぎようもない勢いで


争いへ、戦いへ、人殺しへと


私たちは歩んでいるというのに・・・

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詩を読む 「提灯さげてゆく花嫁」
- 2007/05/07(Mon) -

いつだったか、ずいぶん前に、どこだったか、場所さえ忘れて
たった一度だけ読んだ詩。


今朝、偶然に巡り会うことができた。


            


          提灯さげてゆく花嫁


                         及川 均


着飾らしてやりたかった


せめて木綿なと着飾らしてやりたかった


ほんにせめて木綿なと着飾らしてやりたかった


あいつは暗がりに起きてめしをたいた


あいつはめし前に一駄の草を刈った


あいつはしゃんしゃんと畠に肥料(こえ)をかついだ


あいつはしゃれも唄もこかずに田の草をとった


あいつは祭にも行かねば櫛買ってけろともいわなかった


肴もふんだんに買いたかったさ


酒もあびるように飲みたかったさ


客もどんどん呼びたかったさ


おれの娘の嫁いりだみんなみろみろとはやして歩きたかったさ


らんぷの下で


莚じきの板間で


吹きさらしの小舎(こや)のような家で


おふるの着物の厚い衿で


ひびだらけの赤い手で


白粉気などひとつない顔で


あいつは行ってくるともさよならともいわなかった


だまってぽろぽろ泣いて何遍もお辞儀するだけでいわなかった


花嫁をみろ


白粉気ない花嫁をみろ


笑わないひびだらけのおれの娘の花嫁をみろ


暗い夜だが山がみえる


あいつのさげてゆく提灯がみえる


あいつの行くとおり赤く提灯がいつまでもみえる


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- 2007/05/25(Fri) -

自分自身が葛藤を抱えつつ
自分で考え
自分で決め
自分で実行し
その結果に自分で責任を持つことができるのなら
それ以上に
何を苦しむことがあろうか。


朝から雨


まだ降り続いている


私の心の堂々巡りも


いつ果てるともなく延々と続く・・・・
延々と続く・・・・
延々と・・・・


この雨が止んだなら
私にも終わりはやってくるのだろうか?

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弔いの先
- 2007/06/03(Sun) -

             yuzora.jpg


夕暮れ


家の近くの自然公園へと足を向ける


雲・霧・森の静けさ・・・・


弔いはもう
とっくの昔に終わっていたのだ


ふと、そう気付く


決心と行動


私に問われていたのはただそれだけだったのだと



                 

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GITANJALI
- 2007/06/10(Sun) -

                         GITANJALI 10                    
                                                              Rabindranath Tagore



ここに、あなたの足台がある。


もっとも貧しい人、もっとも賤しい人、挫折した人たちの住むところ、
そこで あなたは足を休めたもう。


あなたの御前にぬかずこうとしても、わたしの礼拝はとどきませんーー
もっとも貧しい人、もっとも賤しい人、挫折した人たちにまじって、
あなたが足を休めていられる奥処(おくが)までは。


驕る心では、けっして 近づくことはできませんーー
もっとも貧しい人、もっとも賤しい人、挫折した人たちにまじって、
下層の民の衣をまとい、あなたが歩いていられるところへは。


わたしのこころは どうしても 見いだすことはできませんーー
もっとも貧しい人、もっとも賤しい人、挫折した人たちにまじって、
友なきものを友とする あなたのもとに通じる道は。

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病まなければ
- 2007/06/11(Mon) -

                       祈りの塔    


                                                         河野 進


                   病まなければ


病まなければ ささげ得ない祈りがある


病まなければ 信じ得ない奇蹟がある


病まなければ 聴き得ない御言葉がある


病まなければ 近づき得ない聖所がある


病まなければ 仰ぎ得ない聖顔がある


おお 病まなければ 


           私は人間でさえもあり得なかった

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GITANJALI 62
- 2007/06/15(Fri) -

                            GITANJALI  62


                              Rabindranath Tagore


坊や、
おまえに きれいな色のおもちゃをもってくるとき、
母さんにはわかりますー
どうして雲や水に あんなに美しい色彩の戯れがあるのかが、
どうして花々が 色とりどりに染められているのかが。
坊や、
おまえに きれいな色のおもちゃをあげるとき。


おまえを踊らせようと 歌うとき、
母さんには ほんとうにわかりますー
どうして木の葉のなかに 音楽があるのかが、
どうして浪たちが 耳をすませて聴いている大地の心臓に
さまざまな声の合唱を送るのかが。
おまえを踊らせようと 歌うとき。


おまえの欲ばりな手に 甘いお菓子をもたせるとき、
母さんにはわかりますー
どうして花のうてなに蜜があるのかが、
どうして果物が こっそり 甘い汁をいっぱいかくしているのかが。
おまえの欲ばりな手に 甘いお菓子をもたせるとき。


いとしい子よ、
おまえの頬に口づけして おまえをにっこりさせるとき、
母さんには はっきりわかりますー
朝の光となって 空から流れてくるのは どんな喜びなのか、
夏の微風が 母さんの体に運んでくるのは どんな歓びなのかが。
おまえの頬に口づけして おまえをにっこりさせるとき。

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わたし(たち)にとって大切なもの
- 2007/06/17(Sun) -

わたし(たち)にとって大切なもの



                                                            長田弘 「死者の贈り物」 



何でもないもの。
朝、窓を開けるときの、一瞬の感情。
熱いコーヒーを啜るとき、
不意に胸の中にひろがってくるもの。
大好きな古い木の椅子。


なにげないもの。
水光る川。
欅の並木の長い坂。
少女達のおしゃべり。
路地の真ん中に座っている猫。


ささやかなもの。
ペチュニア。ベゴニア。クレマチス。
土をつくる。水をやる。季節がめぐる。
それだけのことだけれども、
そこにあるのは、うつくしい時間だ。


なくしたくないもの。
草の匂い。木の影。遠くの友人。
八百屋の店先の、柑橘類のつややかさ。
冬は、いみじく寒き。
夏は、世に知らず暑き。


ひと知れぬもの。
自然とは異なったしかたで
人間は、存在するのではないのだ。
どんなだろうと、人生を受け入れる。
そのひと知れぬ掟が、人生のすべてだ。


いまはないもの。
逝ったジャズメンが遺したジャズ。
みんな若くて、あまりに純粋だった。
みんな次々に逝った。あまりに多くのことを
ぜんぶ、一度に語ろうとして。


さりげないもの。
さりげない孤独。さりげない持続。
くつろぐこと。くつろぎをたもつこと。
そして自分自身と言葉を交わすこと。
一人の人間のなかには、すべての人間がいる。


ありふれたもの。
波の引いてゆく磯。
遠く近く、鳥たちの声。
何一つ、隠されていない。
海からの光が、祝福のようだ。


なくてはならないもの。
何でもないもの。なにげないもの。
ささやかなもの。なくしたくないもの。
ひと知れぬもの。いまはないもの。
さりげないもの。ありふれたもの。


もっとも平凡なもの。
平凡であることを恐れてはいけない。
わたし(たち)の名誉は、平凡な時代の名誉だ。
明日の朝、ラッパは鳴らない。
深呼吸をしろ。一日がまた、静かにはじまる。

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「銀河鉄道の夜」
- 2007/06/24(Sun) -

      『銀河鉄道の夜』 


                    宮沢 賢治


ジョバンニは、ああ、と深く息しました。


「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、
どこまでもどこまでもいっしょに行こう。
僕はもう、あのさそりのように
ほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか
百ぺん灼いてもかまわない。」


「うん。僕だってそうだ。」
カムパネルラの目にはきれいな涙がうかんでいました。


「けれどもほんとうのさいわいはいったい何だろう。」
ジョパンニが言いました。


「僕わからない」カムパネルラがぼんやり言いました。


「僕たちしっかりやろうねえ。」
ジョパンニが胸いっぱい新しい力がわくように、
ふうと息をしながら言いました。


「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの穴だよ。」
カムパネルラが、少しそっちを避けるようにしながら、
天の川のひととこを指さしました。


ジョバンニはそっちを見て、
まるでぎくっとしてしまいました。
天の川の一とこに大きなまっくらな穴が、
どほんとあいているのです。
その底がどれほど深いか、
その奥に何があるか、
いくら目をこすってのぞいてもなんにも見えず、
ただ目がしんしんと痛むのでした。


ジョバンニが言いました。
「僕、もうあんな大きな闇の中だってこわくない。
きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。
どこまでもどこまでも僕たちいっしょに進んで行こう。」


「ああきっと行くよ。
ああ、あすこの野原はなんできれいだろう。
みんな集まってるねえ。
あすこがほんとうの天上なんだ。
あっ、あすこにいるのはぼくのおっかさんだよ。」
カムパネルラはにわかに窓の遠くに見える
きれいな野原を指さして叫びました。


ジョバンニもそっちを見ましたけれども、
そこはぼんやり白くけむっているばかり、
どうしても
カムパネルラが言ったように思われませんでした。
なんとも言えずさびしい気がして、
ぼんやりそっちを見ていましたら、
向こうの川岸に二本の電信ばしらが
ちょうど両方から腕を組んだように
赤い腕木をつらねて立っていました。


「カムパネルラ、僕たちいっしょに行こうねえ。」
ジョバンニがこう言いながらふりかえって見ましたら、
そのいままでカムパネルラのすわっていた席に、
もうカムパネルラの形は見えず
ただ黒いびろうどばかりひかっていました。


ジョバンニはまるで鉄砲玉のように立ちあがりました。
そしてだれにも聞こえないように、
窓の外へからだを乗り出して、
力いっぱいはげしく胸をうって叫び、
それからもう咽喉いっぱい泣きだしました。


もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。


そのとき、
「おまえはいったい何を泣いているの。
ちょっとこっちをごらん」
いままでたびたび聞こえた、
あのやさしいセロのような声が、
ジョバンニのうしろから聞こえました。


ジョバンニは、はっと思って涙をはらって
そっちをふり向きました。


さっきまでカムパネルラのすわっていた席に、
黒い大きな帽子をかぶった青白い顔のやせたおとなが、
やさしくわらって大きな一冊の本をもっていました。


「おまえのともだちがどこかへ行ったのだろう。
あのひとはね、ほんとうにこんや遠くへ行ったのだ。
おまえはもうカムパネルラをさがしてもむだだ。」


「ああ、どうしてなんですか。
ぼくはカムパネルラといっしょに
まっすぐに行こうと言ったんです。」


「ああ、そうだ。みんながそう考える。
けれどもいっしょに行けない。
そしてみんながカムパネルラだ。


おまえがあうどんなひとでも、
みんななんべんもおまえといっしょにりんごをたべたり
汽車に乗ったりしたのだ。


だからやっぱりおまえはさっき考えたように、
あらゆるひとのいちばんの幸福をさがし、
みんなといっしょに早くそこに行くがいい。


そこでばかりおまえはほんとうにカムパネルラと
いつまでもいっしょに行けるのだ。」
 

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眠れぬ夜に・・・・
- 2007/08/31(Fri) -

眠れぬ夜に・・・・・詩をよむ。



もうだめだ


おもいあまってそうつぶやいた瞬間に
地球の果てのあちこちから
もうだめだ、もうだめだ、もうだめだ、と
慟哭する数十億もの声が
怒涛のように打ちよせてくる


そうであったのか・・・・・
あなたも、あなたも、あなたも
そんな絶望を生き抜いていたのか


もうだめだ、などと
迂闊にいったばっかりに
この残酷で不条理で苛烈な運命を
それでも生き抜こうとしていたあなたにまで
もうあなたもだめなんだよと
不遜にも私は言い放ってしまっていたのですね?


両手でしっかりこの口をふさごう
二度と同じ言葉をつぶやくことのないように
目を見開いてあなたを見つめ続けよう
二度と目をそむけることのないように


そしてわたしも生きてゆこう
息を吐き終えるその時まで
あなたがたの呼吸を感じて
あなたがたを友として


わたしは生きる
だからあなたも生きていて


澄みきった天空に向かって大きな声で伝えるのだ


初まりから終わりまでむだな命はひとつもないと





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日々のこと・・・・悪夢にうなされて
- 2007/09/02(Sun) -

その男は、
圧倒的な支配と暴力の臭いを充満させながら突然立ちふさがり
鷲掴むように私の目を見た。


私には分かるのだ。
この種の人間がどのようにして私に侵食してくるのかが。


近寄ってきただけで、その気配と臭いだけで、
まるで繁殖期を迎えた動物のように敏感にそれを察知するのだ。


羞恥?恐怖?絶望?


いや、その正体は欲望だ。
私自身の欲望・・・・
逃れようのない深層の欲望・・・・
自ら破壊されようとする無意識の欲望・・・・
その私の欲望が
眠っている欲望を呼び覚ますのだ。


侵食し陵辱しようと欲望する目に堅縛されて
自らを差し出すかのように身動き一つ取ろうともせず
破壊への欲望に徹底的に打ち倒され
悲鳴さえあげることなく
粉々に砕け散り滅び去ってゆく私のからだ・・・・


危機が身近に迫っている。


あの甘美な破壊の危機がすぐ身近に迫っている。


近寄ってはならない。


決して近寄ってはならない。


どんなことがあっても、決して近寄ってはならない。

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(すべては終わっている)
- 2007/09/04(Tue) -

身体の痛みが心を弱らせるのか


痛みが過去を呼び覚ますのか


念押しするように最も忌み嫌っている夢を立て続けに見る


痛みがどんどん増してゆき、もう堪えて歩くのがやっと


溢れ出てくる言葉は、書いては消し書いては消しして私の中に戻ってくるだけ


痛みは苦しみを思い出させる


痛みは悲しみとともにある


痛みは私を破壊しようとする


押し留めて:


否定せずに押し留めて:


そして静かに目を閉じて確認するのだ


(すべては終わっている)

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ゲシュタルトの祈り
- 2007/09/09(Sun) -

          「ゲシュタルトの祈り」


          yuuyake060924-2.jpg


わたしはわたし。


あなたはあなた。


わたしはわたしのことをやり、


あなたはあなたのことをやる。


わたしはあなたの期待に応えるために


この世に生きているわけではない。


あなたはわたしの期待に応えるために


この世に生きているわけではない。


あなたはあなた。


わたしはわたし。


もし、二人が出会えば、


それはすばらしいこと。


出会わなければ、


それはそれで仕方がないこと。



 


 

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詩ー「この世」 中江俊夫
- 2007/10/19(Fri) -

          mori.jpg


 



          この世  中江俊夫 



水と 水は
おたがいにわからなくなったりしない
水と 水は
おたがいをよく知っている
魚たちや水草たちはそれを
ちゃんとわかっている
つまり この世には
いろんな水たちが棲んでいる


風と 風は
おたがいにわからなくなったりしない
風と 風は
むしろおたがいのちがいをよく知っている
鳥たちや樹々はだから
ほんとにしっかり呼びわける
つまり この世には
いろんな風たちが棲んでいる


このいろんな無数の水たちと
いろんな無数の風たちが
地球を覆っていて
一所懸命より深く包み込む
この大地をやわらかくつよく
すると雛みたいに
産まれる いろんな無数のかたち有るものと無いものが



                          『田舎詩篇』より

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詩ー「こころ」 萩原朔太郎
- 2007/10/27(Sat) -

                       2099009211.jpg
           
                               
こころ
                                                      萩原朔太郎          


こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。


こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。


こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。


(『純情小曲集』)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


早朝に目覚めて、何年ぶりかで朔太郎を開いてみました。


昨日、台所の大掃除をついやりすぎてしまったせいか、
身体中が筋肉痛でぎしぎし軋んでいます。(ほどほどにすればいいのにネ・・・・)


「ああこのからだをばなににたとへん」


実際はそんな心境です(笑)


今日はワークショップの日、どんな体験が待っているのか?


わくわく、どきどき238


早めに下に降りて、
軋む身体を引きずりながら朝の用事を開始することにいたします。


朔太郎の世界から、食堂のおばちゃんに変身~!!

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詩ー「あそび」 北原白秋
- 2007/11/04(Sun) -

                    あそび (その二)より


                        北原白秋


       一


時として遊び得ずけり。


ただただにくるしかりけり。


さはあれど、また遊ぶなり。


ほれぼれとただ遊ぶなり。


        四


貧しくてかつゑし時も


貧しさと我はあそびき。


米なくてはかなき時も


雀子(すずめご)と恍(ほ)れて遊びき。


        五


遊びつつ、まことあそべよ、


身も霊(たま)もあげて忘れよ。


遊びほれ、あそぶことすら、


はてはただ忘れわすれよ。


        七


生けらくは生きてあそばむ、


さびしくばさびしがるまで。


常なきを常なしとせむ。


美しきうつくしとせむ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


わけがわからなくなってきたとしても、


そのわけのわからないということの中に、


遊びのすばらしさを感じます。


意味を考える前に、まず楽しむということも


人間の生き方としては必要なのかもしれません。


その楽しみの中には、哀しみややすらぎも含まれていて、


この大きな空から見たら、


もしかしたら人間の営みは、


すべて遊びのようにも思えてきます。


昨日のワークショップ・・・・


心のままに身をゆだね、全身全霊、遊んでまいりました。


行けなかった先週の分も、2週間分の大音声で、


どうしても言葉にできなかった言葉を、


身体の中心核から押し出すように雄叫んでいたように思います。


ウワォォォ~!!(笑)

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むかし、私たちは
- 2007/11/17(Sat) -

             
             
 むかし、私たちは

           
           
木は人のようにそこに立っていた。

           言葉もなくまっすぐ立っていた。

           立ちつくす人のように、

           森の木々のざわめきから

           遠く離れて、

           きれいなバターミルク色した空の下に、

           波立てて

           小石を蹴って

           暗い淵をのこして

           曲がりながら流れてくる

           大きな川のほとりに、

           もうどこにも秋の鳥たちがいなくなった

           収穫のあとの季節のなかに、

           物語の家族のように、

           母のように一本の木は、

           父のようにもう一本の木は、

           子どもたちのように小さな木は、

           どこかに未来を探しているかのように、

           遠くを見はるかして、

           凛とした空気のなかに、

           みじろぎもせず立っていた。

           私たちはすっかり忘れているのだ。

           むかし、私たちは木だったのだ。


      ・・・・・・・長田弘『人はかつて樹だった』より・・・・・・・

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詩を読む
- 2008/01/03(Thu) -
こんなにも、静かで穏やかなお正月を迎えているのに
いえ、だからこそなのかもしれないのですが
宮沢賢治の「永訣の朝」を
どうしてもブログに載せたくなってしまいました。

「松の針」「無声慟哭」「風林」「白い鳥」とともに
『無声慟哭』と名づけられた連作のような詩のなかの一つで
賢治の生前に発表された唯一の詩集「春と修羅」に収められています。

随分古びてしまったこの詩集を、何度も本棚から取り出しては
繰り返し繰り返し読みたくなってしまうのです。

最愛の妹を喪う悲しみ・・・・
妹の天上への転生、生まれ変わりを願う悲痛な思い・・・・
陰惨な暗い雲からやって来る美しい雪への感動・・・・

賢治の深い悲しみは、私に人生の無常を知らしめてくれます。
賢治の修羅の慟哭に、今だからこそ、そっと触れたくなるのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

              永訣の朝     
                          宮沢賢治  1922/11/27 

   

   けふのうちに

   とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ

   みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

      (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

   うすあかくいっそう陰惨(いんざん)な雲から

   みぞれはびちょびちょふってくる

      (あめゅじゅとてちてけんじゃ)

   青い蓴菜(じゅんさい)のもやうのついた

   これらふたつのかけた陶椀(たうわん)に

   おまへがたべるあめゆきをとらうとして

   わたくしはまがったてっぽうだまのやうに

   このくらいみぞれのなかに飛びだした

      (あめゅじゅとてちてけんじゃ)

   蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲から

   みぞれはびちょびちょ沈んでくる

   ああとし子

   死ぬといふいまごろになって

   わたくしをいっしゃうあかるくするために

   こんなさっぱりした雪のひとわんを

   おまへはわたくしにたのんだのだ

   ありがたうわたくしのけなげないもうとよ

   わたくしもまっすぐにすすんでいくから

      (あめゅじゅとてちてけんじゃ)

   はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから

   おまへはわたくしにたのんだのだ

     銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの

   そらからおちた雪のさいごのひとわんを・・・・・

   ・・・・・ふたきれのみかげせきざいに

   みぞれはさびしくたまってゐる

   わたくしはそのうへにあぶなくたち

   雪と水とのまっしろな二相系(にさうけい)をたもち

   すきとほるつめたい雫にみちた

   このつややかな松のえだから

   わたくしのやさしいいもうとの

   さいごのたべものをもらっていかう

   わたくしたちがいっしょにそだってきたあひだ

   みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも

   もうけふおまへはわかれてしまふ

   (Ora Orade Shitori egumo)

   ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

   あああのとざされた病室の

   くらいびゃうぶやかやのなかに

   やさしくあをじろく燃えてゐる

   わたくしのけなげないもうとよ

   この雪はどこをえらばうにも

   あんまりどこもまっしろなのだ

   あんなおそろしいみだれたそらから

   このうつくしい雪がきたのだ

      (うまれでくるたて
       こんどはこたにわりやのごとばかりで
       くるしまなあよにうまれてくる)

   おまへがたべるこのふたわんのゆきに

   わたくしはいまこころからいのる

   どうかこれが天上のアイスクリームになって

   おまえとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに

   わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

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詩を読む②
- 2008/01/04(Fri) -
お正月もお終い。

今日から、私と娘はバイト始まり。
取り残される夫と息子は、2人で一体何をしているのでしょう?(笑) 

        賢治『無声慟哭』2作品目「松の針」です。
                 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                 松の針
                           宮沢賢治 1922/11/27


     
     さつきのみぞれをとつてきた

     あのきれいな松のえだだよ

   おお おまへはまるでとびつくやうに

   そのみどりの葉にあつい頬をあてる

   そんな植物性の青い針のなかに

   はげしく頬を刺させることは

   むさぼるやうにさへすることは

   どんなにわたくしたちをおどろかすことか

   そんなにまでもおまへは林へ行きたかつたのだ

   おまへがあんなにねつに燃され

   あせやいたみでもだえてゐるとき

   わたくしは日のてるとこでたのしくはたらいたり

   ほかのひとのことをかんがへながら森をあるいてゐた

      《ああいい さつぱりした

       まるで林のながさ来たよだ》

   鳥のやうに栗鼠(りす)のやうに

   おまへは林をしたつてゐた

   どんなにわたくしがうらやましかつたらう

   ああけふのうちにとほくへさらうとするいもうとよ

   ほんたうにおまへはひとりでいかうとするか

   わたくしにいつしよに行けとたのんでくれ

   泣いてわたくしにさう言つてくれ

     おまへの頬の けれども

     なんといふけふのうつくしさよ

     わたくしは緑のかやのうへにも

     この新鮮な松のえだをおかう

     いまに雫もおちるだらうし

     そら

     さわやかな

     terpentine(ターペンテイン)の匂もするだらう
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